【109日目】経済大国シンガポールでの5時間
インドネシアに別れを告げて、次なる目的地をタイに見定めた僕らだが、その前に1つだけ用事があった。Miaの大学時代の友達がシンガポールにいる。せっかく近くまで来たのだから会いに行こう、と5~6時間ではあるが、トランジットついでにシンガポールに行ったのだ。
まずシンガポールの空港についての第一印象は「日本みたい」だった。空港内の看板には日本語も書かれ、その府に来も日本の成田空港に比べてむしろ垢抜けているくらいだ。ここまでの旅の中で見た最も都会的な空港であり街だろうと思う。
空港で入国審査を済ませ、ATMでお金をおろすとまた小さな驚きが……。5000円分くらいをおろしたら$50札1枚。インドネシアで5000円分といえば、500,000ルピアで、50,000ルピア札10枚になるのが普通だ。金銭感覚破壊が進む。
Miaの友達夫妻と合流し、彼らの家に荷物を置かせてもらう。そこで見たのは整然と並ぶマンション群。見渡す限りのマンション街。ご存じの通り、小さな国土しか持たないシンガポールである。人が住むにも縦に居住域を伸ばさなければならないのが見て取れる。
マレー半島の先端に位置し、北部をマレーシア、南部の海を挟んでインドネシアに接するシンガポールはそれらの国との行き来も多いらしく、聞けば夕飯を食べにマレーシアに行くことさえあるという――もちろん日帰りだ。海に囲まれた日本人には考えにくい日常だろう。
この経済大国・陸土小国のシンガポールにも中華街がある。僕らはそこでお昼ごはんをご馳走になった。この旅始まって以来の高級料理。シンガポールでも老舗の中華料理屋で点心に始まり、数え切れないほどの小皿を食べ尽くして、おいしい中国茶を惜しげもなく飲み、おなかを膨らませた。
「あまりにおいしいものを食べると胃がびっくりする」
そんなことを心底思ったのは初めてかもしれない。
その後はシンガポールのオフィス街やデパートなどを散策。摩天楼のような高層ビルを眺め、複雑につながる地下街でウィンドウショッピングをし、僕らのシンガポール散策は終わった。
ちなみに有名な観光スポットのマーライオンだが、遠くから見たものの「だから?」という予想通りの落胆で、近寄ることさえしなかった。世界がっかり観光地の1つに任命しよう。
Miaの友達(男)はシンガポールで仕事をしているのだが、妻は仕事を探していて、「やりたいことができそう」ということでアメリカでの勤務となる仕事を希望している。夫はといえば、それに反対することもなく「そうなれば向こうの事務所に異動させてもらうお願いをする」といって、一緒にアメリカで住もうと考えている。
<場所>にまったく囚われない生き方が自然とできている。やりたいことを先に決めて、それに合わせるように自然と場所が決まる。母国を出て生きていくという事へのハードルの低さに勇気づけられる。
僕らもなんとかして、アメリカで仕事を探したいと思っている。自分の半母国であるアメリカで生きてみたい、という思いがあるのと、彼らのように場所に縛られない生き方をしたいという重いがある。それがうまくいくかどうかは自分たち次第。それまでにやらなきゃならないことも山ほどある。
短いシンガポール滞在だったが、自分の理想の生き方を再認識させられる体験となった。