【134日目】旅に出て、初めて髪を切る

Miaの友人の母であるトイの家に泊めさせてもらい、それがいつのまにか10日にもなろうとしていた。僕ら2人とトイの3人の生活にも慣れ、僕らが――と言ってもほとんどはMiaが料理を作り、食事の時間以外はトイは自分の用事で外出し、僕らも家でブログや小説を書いたり、近くの町までバイクで行ってみたりと、観光をするわけでもなく、毎日週末のような生活を過ごしていた。

トイの息子であるマットが日本への旅行から帰ってきて、いつのまにか4人の生活になり、それでもなお、基本的な生活は変わらず、飽きずに小説を書いている。

ある日、バイクで隣町まで夕飯の買い物に出かけた帰り、Miaが見かけた美容院を指さした。

「髪切る?」

切りたい切りたいとは思っていたが、いざ美容室を目の前にすると、急に後ずさりたくなる。東南アジアで見かける美容室にしてはキレイで、曇り1つないガラスを通して見える店内も清潔感があり、言ってみれば日本で見かけるものと変わらない。入り口のガラスには何やら料金らしき数字が並んでいるが、タイ語はいまだ1文字たりとも読めず、それがなにを意味するのか分からなかった。とにかく1番大きな金額が800バーツ(約2400円)なので、十分払える額ではある。

「まァ、ほら、どんな髪型にするかも決めてないし……」
「パーマ掛けてみようよ」

そう、たしかにパーマを掛けてみたくて、それならばしばらく切らずに放置しておこうと、あえて伸ばしっぱなしにしていたのだから、どんな髪型にするか決めていないわけではなかった。

「それじゃ、ちょっと値段を聞いてみて、ね」

言い訳がましい言葉を残しながら、扉を開けた。中は日本の美容室と変わらない。入って左側には待合用のソファーが並び、右側にカット用の席が3つ並ぶ。待合用のソファーの前にはファッション雑誌を載せたガラスのテーブルがあり、それ自体が水槽になっていて、上から見ると金魚が泳いでいるのが見える。

客は1人、従業員らしい人が3人。従業員の1人は忙しく客のカットをしているが、あとは付けっぱなしのテレビを見ている。

従業員は誰ひとりとして英語を話せないが、こちらが「カット・アンド・パーマ」と言い続けていると、スマートフォンのタイ語英語辞書を持ってきて、コミュニケーションを取ろうとしてくれた。それでもなかなか伝わらず、店内は焦れったさと苛立ちで妙な緊張感になる。それを何度となく繰り返し、ようやく「パーマ」という言葉に行き着き、こちらが頷くと店内の緊張が解け、妙な笑いが広がった。

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テレビを見ていた店員がカタログを持ってきて、僕らはそれをパラパラとめくる。なぜか日本の有名人の写真も多く、僕が知っている人だと水嶋ヒロなどが映っていた。その中から、希望の髪型を指さすと従業員は頷いて、作業開始となる。

僕は促されるままに洗面台へと横たわる。日本のように顔の上に布を置くようなこともなく、さっそく洗髪。首回りに巻くタオルが甘く、Tシャツがびっしょりと濡れるが、洗い方自体は日本と大きく違わない。

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カットする席に座ると、さっそくパーマの準備に取りかかる。正面は壁一面がガラス張りになっており、座っていても店内の様子が見渡せる。Miaは最初こそカメラを持って、あれこれ撮っているが、飽きるとタイ語の雑誌を眺め始めた。僕もつられるようにタイ語のファッション誌を開く。

美容室においてある雑誌だからか、写真のほとんどが女性で、どことなく露出が多いように見える。アジアンな雰囲気はあまりなく、服装だけ見ればハリウッド風とも取れるゴージャスさだ。一方でページの端々に脇役のように映っている男は頼りなく、どこか迎合したコミカルな服装だった。着飾った華々しい女性と、軟弱な男の妙な対比に内心笑っているが、美容室に入る前の自分らを思うと、急に「まァ、そういう演出だから」と男を擁護したくなる。

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パーマ液を洗い落とし、カットに入る。自信ありげな顔つきではあるが、時々首を傾げるような仕草をしている。しばらく髪と格闘し、左右の長さを確かめ、後ろ髪を切りそろえ、ようやく納得したのか、それとも覚悟を決めたのか、手鏡を持ってきて終わりとなった。

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これが良かったのか、悪かったのか、それは見た人の判断に任せたい。

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