世界最年少の政治犯と呼ばれるパンチェン・ラマ11世は2人いる

パンチェン・ラマという人をご存じですか?

僕もチベットについて勉強するようになるまでは全く知りませんでした。そして、知ったときの衝撃というか、悲しさというか……。こういう問題が起きているということをぜひ知ってほしいし、それがチベット人にとって凄く――たぶん日本人想像するよりはるかに重要なことであると言うことを知ってほしいのです。

できる限り簡単に書きますので、試しに読んでみてください。


まずは凄く基本的な前提を

仏教のトップ = 政治のトップ

チベットは仏教の国です。そのため仏教のトップが国のトップになります。そしてそれがダライ・ラマなんですね。つまりダライ・ラマが政治・仏教の両面でトップになります。

※現状のチベット亡命政府ではダライ・ラマは政治からは退いているとはいえ……。この言い方で間違いないかと。

ダライ・ラマの選び方

チベット仏教では輪廻転生を信じています。つまり生まれ変わりですね。

ダライ・ラマが亡くなると、少しして生まれ変わり、次の代のダライ・ラマが生まれることになります。しかしどこの子どもがダライ・ラマの生まれ変わりかが難しい。それを見つけるのが占い師です。

毎回ダライ・ラマが亡くなると、占い師やダライ・ラマ以外の高僧(格の高い仏教僧)らがあの手この手で調べ上げ、最終的にひとりのダライ・ラマを選び出すことになるわけです。

選ぶ際は多くの人が協力し合うわけですが、最終的にチベット仏教として「この人がダライ・ラマである」という承認をしなければなりません。もちろん誰でも承認できるわけはなく、その最重要ポジションにいるのがパンチェン・ラマになるわけです。

逆にパンチェン・ラマを承認するのがダライ・ラマであり、この両者は互いに生まれ変わるたびに承認し合うような形になります。

※パンチェン・ラマがなくなってすぐにダライ・ラマが亡くなるなど、両者が以内状態になると、別の人が代わりに承認するようです。事実、現在のダライ・ラマ14世の承認時にパンチェン・ラマはいなかったようです。

つまり

チベットの仏教・政治・国民の精神の面でトップがダライ・ラマ。2番手にパンチェン・ラマという図式になります。そしてそれぞれ輪廻転生し、生まれ変わりが次の代になる、ということを理解してください。

パンチェン・ラマ問題

パンチェン・ラマ10世の承認と投獄

1949年に中国はチベットを侵略し、1951年に「チベットの平和的解放に関する17か条協定」というチベットが中国の支配下であるという、強制的な協定が結ばれました。その時期、たまたまパンチェン・ラマ9世が亡くなっており、次の代が決まっておらず、空席だったんですね。その10世を中国が決めてしまいました。

つまりこのパンチェン・ラマ10世というのはチベットではなく、中国の人選だったわけです。これだけでも大きな問題であり、チベットとしては納得できないものだったのでしょうが、当時軍事力で圧倒的に負けていたチベットは戦うことも叶わず受け入れることになりました。

ここで中国はパンチェン・ラマ10世 vs ダライ・ラマ14世の対立関係を作ります。中国は自分で選んだパンチェン・ラマに取り入り、中国思想を植え付け、最終的には「ダライ・ラマはチベットを崩壊させる分裂主義者であり、パンチェン・ラマこそチベットのトップである」という図式を作ろうとしました。

ここまで中国としては成功していたんですね。ダライ・ラマ14世がインドに亡命したあともパンチェン・ラマ10世はチベットに残り、中国・チベット間の橋渡しの役目を担っていました。

長らく中国の管理下にあったパンチェン・ラマ10世でしたが、中国のやり方を見て「これではいかん」と思ったわけですね。そこで中国政府に対して「今のチベット弾圧はおかしい」と訴えたんです。それが「七万言上書」と呼ばれる書面です。その後も、1964年の大祈祷祭で、中国政府が用意した「ダライ・ラマ批判」のスピーチ原稿を無視して、ダライ・ラマを称える演説を行いました。

なんとこれが理由で投獄されることに。しかも10年も……。

そして、釈放されたあとでパンチェン・ラマ10世はまた公の場で、中国が用意した原稿を無視してチベット側に立った演説を行いました。

この5日後、パンチェン・ラマ10世は急死。

パンチェン・ラマ問題はここでは終わりません。むしろ現在のパンチェン・ラマ問題はここからです。

パンチェン・ラマ11世は誰か?

最初に書いたとおり、パンチェン・ラマが亡くなると、次の代が生まれ変わってくるわけです。それを見つけるのはダライ・ラマを中心としたチベット政府・チベット仏教の役割です。

1995年5月14日、チベット政府はゲンドゥン・チューキ・ニマ(以下ニマと呼ぶ)という少年をパンチェン・ラマ10世として認定しました。もちろんダライ・ラマ14世の承認つきです。ところが中国政府はそれを受け入れず、承認しませんでした。

なんとその3日後、ニマ少年が家族もろとも失踪します。長いこと行方知れずでしたが、1年後、中国政府が「ニマ少年は両親の要請に基づいて政府が保護している。ニマ少年は分裂主義者によって連れ去られる恐れがあり、身の安全が脅かされている」という理由で ”保護” していたと発表します(中国の言う分裂主義者というのはダライ・ラマ14世のことです)。

このニマ少年、当時から今に至るまで一度も公に姿を出したこともなく、生きているかどうかさえ分かっておりません。外国報道機関、人権保護団体など、多くの人が面会を依頼しましたが、中国政府は断固として拒否しています。

これだけでも一大事件なのですが、話はまだ終わりません。

もうひとりのパンチェン・ラマ11世

中国はダライ・ラマ14世やチベット政府が認定したニマ少年を拒否したあと、同じ年に全く違う少年をパンチェン・ラマ11世であると公表しました。その少年の名はギェンツェン・ノルブといいます。

このノルブ少年が今でも歴代パンチェン・ラマが務めていた寺に住んでいるわけです。当然これはチベット人としては納得のいかないこと。そしてこのノルブ少年はチベット代表として公の場で「チベットでは信仰の自由が守られている」と宣言するなど、実情にそぐわない演説を繰り返している。

パンチェン・ラマ問題まとめ

思いっきり簡単にまとめます。

  1. チベット侵略のタイミングでパンチェン・ラマ10世を中国が決めた
  2. パンチェン・ラマ10世は中国の指示で、中国側に立った活動をしてきたが、中国のやりかたに疑問を持ち、チベット側に立った途端、投獄。10年間監禁される。
  3. 釈放され、またも中国の指示と違うチベット側の演説をしたところ、5日後に急死。
  4. チベット政府がニマ少年をパンチェン・ラマ11世として承認するも、中国は認めず、3日後に中国がニマ少年を家族もろとも拉致(中国政府の言い方だと保護)。
  5. 同年、なんと中国がノルブ少年というまったく別の少年をパンチェン・ラマ11世として発表。
  6. いまだにニマ少年は行方知れず・安否不明。一方で中国が指名したノルブ少年がパンチェン・ラマとして「中国政府側に立って」活動中。

なぜ中国はこんなことをしているか?

いくつか理由があるでしょう。

ダライ・ラマ14世との対立関係を作るため。

中国はダライ・ラマ14世が邪魔で仕方がありません。別の指導者をチベットに立てることで、対立関係を作り、ダライ・ラマ14世の影響力を弱めたいのでしょう。

外交的にチベット弾圧がないことにするため

中国が「チベット弾圧していない」と発言しても意味がありませんが、形式上、チベット仏教のNo.2であるパンチェン・ラマ11世が「チベットは弾圧されていない」と宣言することで、中国政府の活動を正当化することができるようになります。

実際こういった活動は行われているようですが、少し事情を知っている人はもちろん信じていませんね。

つぎのダライ・ラマを選ぶため……

これが実は1番なのではないでしょうか?

最初に書いたとおり、ダライ・ラマ14世が亡くなったら、15世を選ばなくてはなりません。そしてその時にもっとも影響力があるのがパンチェン・ラマです。このまま行けば、中国公認のパンチェン・ラマ11世がダライ・ラマ15世を選ぶことになりかねません。

今、チベットの自治権を取り戻すための活動の最先端にいるのがダライ・ラマです。それが中国側に落ちたら大変です。しかもダライ・ラマはもう80歳になろうとしています。お世辞にも若くない。

どうなることか……。

ダラムサラにはニマ少年の写真がたくさん

この写真が唯一残されている6歳のパンチェン・ラマ11世

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町でよく見かけるパンチェン・ラマ11世の似顔絵。これ以外にも似顔絵は数種類あるみたい。

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ニマ少年はパンチェン・ラマ11世の認定を受けて3日後に行方知れずになってそれきりです。写真も1枚しか残っていないそうです。ダラムサラを歩いていると、町中にその1枚の写真が貼ってあります。

まだ6歳になったばかりのニマ少年です。自分が捕まった理由だって分かっていないでしょう。今、彼は生きているのでしょうか? 中国にとってはまったく用なしになった少年です。殺されていてもおかしくありません。

世界最年少の政治犯とさえ言われています。

ダラムサラの通りを歩くたびに、目につくニマ少年の写真。悲しくて仕方がありません。

ちなみに

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